2020/06/07はちゅうるい館の仲間たち(11)2種のナガクビガメ
皆さんこんにちは。じゃいです。
日に日に夏らしくなってきて、
水に入っている動物たちが気持ちよさそうに見える日々ですね。
今回は、2種類のナガクビガメを紹介します。
ナガクビガメは、別名ヘビクビガメとも呼ばれるカメの仲間です。
はちゅうるい館では、2種類のナガクビガメが同じ水槽で一緒に暮らしています。
こちらの、やや目立つ鼻と、ツルッとした顔をもっているのが
ニューギニアナガクビガメ Chelodina novaeguineae です。
世界中でニューギニア島にのみ分布する固有種です。
ジャングルの河川や湖沼に生息していて、小魚、甲殻類、昆虫、貝などを食べています。
甲羅の長さは20cmほどで、頭と甲羅は黒っぽいですが、お腹側は白色です。
アゴにヒゲが生えているように見えるこちらが、
チリメンナガクビガメ Chelodina rugosaです。
ジーベンロックナガクビガメ Macrochelodina siebenrockiという名前で通っていましたが、
近年の研究によってチリメンナガクビガメと同じ種だということがわかり、名前が統一されました*。
オーストラリアの一部と、ニューギニア島の淡水域に生息しています。
河川や湖で小魚や甲殻類などを食べることはニューギニアナガクビガメと同じですが、
こちらの方がやや臆病で、驚くとすぐ泳いで逃げる上、陸地にあまり上がらない傾向にあります。
そして両方に共通する一番の特長は、その名のとおり首が長いこと。
ナガクビガメの種類によっては、甲羅よりも長い首をもっていることもあるんです。
こんなに長い首、ちゃんと甲羅の中に引っ込めることができるんでしょうか...?
カメの仲間は、潜頸類(せんけいるい)と曲頸類(きょくけいるい)という2つに大きく分けられます。
世界のカメの8割ほどが潜頸類で、イシガメやクサガメなど日本に生息するカメは全て潜頸類です。
またアカミミガメ、ゾウガメ、ウミガメなど、
皆さんが「カメ」と聞いてイメージするのもほとんど潜頸類ではないでしょうか。
一方で、ナガクビガメの仲間は曲頸類の仲間です。
この2つ、なにが違うかというと、首をどのように動かしているかが違っています。
これは、潜頸類の首の骨を横から見た図と、曲頸類の首の骨を上から見た図です**。
イシガメやゾウガメなど潜頸類の首は、縦のS字状に折り曲げることで、甲羅の内側に引っ込めます。
一方でナガクビガメなど曲頸類の首は、横に折り曲げることで、甲羅の隙間に収めています。
カメの仲間は危険を感じると、硬い甲羅のなかに柔らかい手足と頭を隠します。
が、縦に折り曲げる潜頸類に比べると、ナガクビガメの首は完全に隠れていませんね。
特に、大型の肉食獣や猛禽類など、カメを狙う敵が多い陸上で生活しようとする場合は、
しっかりと甲羅に隠れられる方が、カメにとっては有利です。
世界中で繁栄するカメのうち多くが潜頸類であることは、
潜頸類のもつ"防御力"が大きな理由かもしれません。
一方で、長い首をもつ曲頸類は、全ての種類が水中を主な生活の場としています。
ワニや大型の魚を除くと、水中で成体のカメを食べる捕食者は多くありません。
生活圏に敵が少ないナガクビガメにとっては、頭を完全に甲羅に隠せなくても、あまり問題がありません。
むしろ泳いでいる小魚やエビを捕まえたり、水面に口先だけだして呼吸できるように、
長い首をもっていることの方が、有利なのだろうと考えられています***。
それで、曲頸類には長い首をもつ種類が多いのでしょうね。
また、潜頸類の仲間でも、全てのカメが頭を完全に隠せるわけではありません。
水中を生活の場とするウミガメは、頭も手足も引っ込めることができません。
大きな餌を食べるワニガメは、頭が大きすぎて、甲羅に入りません。
一言にカメといっても、それぞれの生活に合わせて、多種多様な進化の形をみせているんです。
とはいえ、安佐動物公園でみられる曲頸類はこの2種類だけ。
はちゅうるい館のマレーハコガメ、リクガメ広場のリクガメたち、ぴーちくパークのクサガメたちは、全て潜頸類です。
他のカメたちと2種類のナガクビガメとの形の違い、ぜひゆっくりと観察してみてください。
それでは、また次回!
じゃい
*コウホソナガクビガメChelodina oblongaを含めた3種が同種であるとされていますが、種名については議論が続いています。本記事での分類は www.reptile-database.org に従っています。
**Herrel et al., 2008. Cervical Anatomy and Function in Turtles. In "Biology of turtles: From structures to Strategies of Life", Ed by Wyneken et al., CRC Press, Florida, USA, pp163-185. を参考に作図。
***Pritchard, 1984. Piscivory in turtles, and evolution of the long necked Chelidae. Symposia of the Zoological Society of London, 52: 87-110.