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2025/01/02巳年:ヘビとヒトの関係を知ってみよう!(後編)

皆さんこんにちは!じゃいです。

巳年お正月スペシャル・ヘビとヒトの関係を知ってみよう!の後編をお届けします。今回は日本人の歴史とヘビの関係がテーマのお話です。

 

昨日の記事では、世界の人々がヘビを神聖なものや邪悪なものとして、様々な形で信仰してきたことをご紹介しました。一方で古来の日本人は、ヘビに限らずあらゆる生命と自然現象に「八百万の神(やおよろずの神)」が宿ると信じていました。

 

当時の日本人にとって、ヘビは信仰の対象の一つであると同時に、身近に生息している動物でした。縄文時代の土器にはヘビが彫られたものや、頭にマムシを乗せた人が描かれたものが見つかっています。

縄文土器.jpg

【ヘビが象られた縄文土器 出典:吉本, 渡辺1994.】

 

古代ローマ人のようにヘビを不老不死の象徴と見ていたかはわかりませんが、稲作が始まった頃の日本人は水神や豊穣の神としてヘビを祀るようになりました。ヘビがカエルなどの獲物を狙って水田によく現れたことと、穀物を荒らすネズミなどを獲ってくれたことがその由来のようです。

 

しかし当時の水田や河川は、現代のような護岸工事などはされていません。大雨が降るたび、洪水による被害に見舞われていました。その水害は、「水田開拓のために自身の縄張りを荒らされた」ことで、水神であるヘビが人間たちに向けた怒りによるものだろうと考えられていたようです。

 

その最も有名な例が、古事記に描かれる出雲の八岐大蛇(ヤマタノオロチ)伝説ですね。8つの頭と8つの尾をもつ大蛇の怪物を、スサノオノミコトが退治したという伝説です。現在の島根県を流れる斐伊川はたびたび氾濫が起こっており、下流域の水田を何度も破壊したそうです。山から流れる斐伊川そのものを大蛇に見立てたのが、八岐大蛇伝説の元になったという説があります。

 

つまり、当時の日本人にとってヘビは水の神であり、山の神でもあり、河川の流れの化身でもあったのだと思われます。

 

ところで、八岐大蛇のモデル...つまり実際に川と見間違えるほど大きなヘビは当時の日本にいたのでしょうか?

 

現在の日本にはウミヘビを含めると42種のヘビが生息しており、そのうち本州の陸地で見られるのは8種です。アオダイショウ、シマヘビ、ヒバカリ、ニホンマムシ、シロマダラ、ヤマカガシ、ジムグリ、タカチホヘビ。最も大きいアオダイショウでも、最大で全長2 mほど。ちょっと大蛇とは呼べそうにありません。

 

いわゆる大蛇と呼ばれるアナコンダやニシキヘビの仲間は、それぞれ南米と東南アジアにのみ生息しています。現在は外来種として定着してしまった地域もありますが、当時の日本に大蛇が生息していた可能性は低そうです。

大蛇!.JPEG

こちらは、はちゅうるい館のビルマニシキヘビ。全長は4mほどです。普段から迫力を感じつつ作業していますが、弥生時代の日本人がこんな風に大蛇に見下される経験はなかったと思われます。

   

となると、やはり昔の日本人は大きなヘビを見たから八岐大蛇を想像したのではなく、あくまで河川の流れとヘビの姿が似ていることに気付いて、水神として崇めたのでしょう。曲がりくねって流れる川の流れを「蛇行」と呼ぶのも、豊かな自然と多くの川が流れる地で、古くからヘビを身近に感じていた日本人ならではかもしれませんね。

 

さて先程も話題に上がりましたが、本州には8種のヘビがおり、広島県内に8種とも生息が知られています。安佐動物公園の敷地内でも、タカチホヘビ以外は職員による目撃例があります。春になったら、はちゅうるい館の中だけでなく、外でもヘビたちに出会えるかも?

園内ヘビ.jpg

【動物園内の野生ヘビたち (左上) ニホンマムシ (左下)シマヘビ (右上)ジムグリ (右下)ヤマカガシ】

 

とはいえ、園路外の茂みや林には入らないようにしましょう。神の怒りが落ちることはないはずですが、ヘビ達にとっては安全地帯ですから、荒らさないでくださいね。運が良ければ、園路にひょっこり顔を出してくれます。

 

さて、前後半に渡ってヒトとヘビの関係についてご紹介してきました。

世界でも日本でも、ヒトにとってヘビはとても崇高で、畏敬の念を集める存在でした。ですから、子孫である私たちがヘビを苦手に感じてしまっても無理はありません。ですが、やはり私たちの暮らす生活、生態系の中で重要な存在でもあります。彼らを厄介者として扱うのではなく、そっと見守りつつ、お互い適度な距離をとる関係を保てたら良いのだと思います。

 

また同時に、ヘビは古来より人々の身近な存在でもあり続けています。見た目やイメージに囚われずに、ヘビの良いところも探してもらいたいというのが爬虫類担当の本音です。実はとても面白くて、不思議で、格好良い生き物ですよ。せっかく12年に一度の巳年、ヘビたちのことをちょっとでも考えて、身近に感じてもらえたら嬉しいです。

 

それでは改めて、今年も安佐動物公園をどうぞよろしくお願い致します!

 

じゃい

【参考】

吉本, 渡辺 1994. 人面・土偶装飾付土器の基礎的研究.日本考古学 1: 27-85.

日本爬虫両棲類学会(編)2021. 新日本両生爬虫類図鑑.サンライズ出版

櫻井1999. 開発と自然環境問題に対する民間伝承の「語り」の可能性.野生生物保護 4:63-92.