2022/04/24モトヤスの保護から考えるオオサンショウウオを取りまく環境
4/5に平和公園前の元安川で見つかり、4/7に本川で保護されたオオサンショウウオの『モトヤス♂』が残念ながら4/22に死亡しました。上流にいるはずのオオサンショウウオが河口近くの、しかも平和公園前で見つかったことから大きなニュースとなり、動物園での保護に繋がりました。特別天然記念物のイレギュラーな発見から動物園での保護と、社会から注目を集めましたが、今回の発見例から考えられるオオサンショウウオをとりまく環境について少し考えてみます。
【安佐動物公園の水槽で療養するモトヤス】
まず、なぜ下流域で見つかったかについては、人による移動の可能性も否定はできませんが、おそらく過去の増水によって本来の生息場所から下流へ流された可能性が高いと思います。近年、地球温暖化などの気候変動によって数十年に1度と言われるような集中豪雨が、かなりの高頻度で起こるようになりました。そのような大雨による増水で、広島県東広島市や山口県岩国市、岡山県真庭市などで、多くのオオサンショウウオが下流へ流されただろうという調査結果もあります。今回の太田川水系でも、同じように流されているオオサンショウウオが少なくないのではと思います。昨年の9月、元宇品の砂浜でも21cmほどの小さなオオサンショウウオが見つかったこともありました(このときも、残念ながら2週間ほどで死亡しました)。
【元宇品の砂浜で発見されたオオサンショウウオ】
オオサンショウウオなど、多くの両生類は定住性があるとされ、特に産卵シーズンなどには、同じ産卵場所に毎年集まります。流されたオオサンショウウオは元の場所に戻ろうとしますが、川を横断する堰堤(人工構造物の高い段差)によって、戻れなくなっていると考えられています。魚が遡上するための魚道が設置されている場所もありますが、川底を歩いて移動するオオサンショウウオにとっては上れない魚道も多く、オオサンショウウオが利用できる斜路を設置していくことが大切です。
【魚道は付いているがオオサンショウウオは上れない堰堤】
一方、人による移動については、日本に持ち込まれたチュウゴクオオサンショウウオとの交雑問題が京都や三重などの関西各地、岡山県で起こっています。特徴的な体の模様によって、交雑個体かどうかを推測できることもありますが、確実に調べるためにはDNAを確認する必要があります。モトヤスの体の模様からは交雑個体である可能性は低いですが、今後、DNAを調べて交雑かどうかを確認できればと思います。
【京都で見つかっている交雑個体】
モトヤスの四肢の指は、欠損もなく、すべて綺麗な状態でした。オオサンショウウオは繁殖期になると強いオスが繁殖につかう良い巣穴を守り、オス同士の闘争により、指の欠損が見られることがよくあります。そのため、モトヤスはメスではないかと想像していましたが、死亡後の解剖の結果、精巣がありオスと確認できました。このことから、モトヤスは繁殖行動に関わってこなかった可能性が高いのではと推測しています。比較的、若いときに中流から下流へ流されて堰堤の下などで餌は食べられたものの、上流へ戻ることはできなかったのかもしれません。そうこうしているうちに、徐々に下流へ下流へと流されてしまったのでしょうか。
【四肢の指がすべて綺麗だったモトヤス】
動物園は、園内でたくさんの動物を飼育・展示し、来園者の方々に楽しんでいただくとともに、動物の調査研究、教育普及、保全活動も行っています。安佐動物公園は開園以来、オオサンショウウオについての様々な活動を続けてきました。オオサンショウウオの発見情報も継続的に記録していますので、情報がありましたらお寄せいただければと思います。今後もオオサンショウウオを含めた自然環境の保全に取り組んでいきます。