2024/01/02辰年とワニの話
あけましておめでとうございます!じゃいです。
2024年は辰年ですね。
辰・竜・龍・ドラゴン...色々な呼び方がありますが、十二支では唯一の実在しない動物です。
お正月の動物園では、どの動物を「辰」として掲げるか?は12年ごとに訪れる悩みだったりします。
もちろん正解はないのですが、はちゅうるい館担当としてはワニを推したいところです。
というのも十二支の発祥である古代中国においては、ワニこそが龍のモデルだという説があるからです。
とはいえ現在の中国に分布するワニは、ヨウスコウアリゲーター Alligator sinensis のみ。
全長...つまり頭の先から尻尾の先までが最大でも 2 m、人間には無害とされる小型のワニです。
当時の人達は、本当にそんな小さなワニから龍を想像したのでしょうか?
実は当時の中国には、もっと大きなワニが生息していたのです。
中国の広東省で発掘された ハンユスクス Hanyusuchus sinensis と名付けられたワニの化石は、
なんと全長最大 6.2 mと推定されています。大きいですね!
さらにその化石の頭骨には、なんと青銅器でつけられた傷が残っていました。
およそ3000年前のものと推定されるその傷は、この大きなワニと人類が同時代に生活していた証拠です。
このハンユスクスかその仲間が中国における龍のモデルであり、「辰」の正体だろうと考えられています。
ちなみに、昔は日本にも巨大なワニが生息していたことをご存知でしょうか?
大阪で化石が見つかったマチカネワニ Toyotamaphimeia machikanensis は、
中国のハンユスクスと近縁で、全長なんと 7 mもある大きなワニです。
その仲間と思われる化石が大阪の他に静岡でも見つかっていますが、いずれも30~40万年前のもの。
人類が日本列島に移住したのが5~10万年前なので、それよりも古い時代の化石です。
私達の先祖が日本にやってくる前には、マイクロバスと同じぐらいの長さのワニがその辺りを歩いていたことになります。できれば見てみたかった...!
マチカネワニは日本人の定着前に絶滅していたため、日本の古い書物にその名前は出てこないようです。
ですが唐・宋・明(9~15世紀)といった時代の中国史書には、
当時の人々が大きなワニの駆逐を試みたという記述が残っているそうです。
つまり、ハンユスクスは数十万年前からずっと中国に生息していたものの、
数百年前に人間の手によって絶滅してしまったのだろうと考えられています。
それがなければ想像上の龍ではなく、実在するワニが「辰」として定着していたかもしれませんね...?
現在、世界にワニは27種いるとされていますが、安佐動物公園にいるニシアフリカコビトワニを含め、
ほぼ全てが絶滅危惧種に指定されています。
皮革を目的にした乱獲、生息地の汚染、危険を避けるための駆除など、減っている主な原因は人間です。
近年では世界各地で保護活動が進んでおり、日本の動物園も希少なワニの繁殖と保全に取り組んでいます。
ハンユスクスのような「二度と生きた姿を見られないワニ」がこれ以上増えないように、
ワニのことを少しでも知ってみる機会が、この辰年に皆さんに訪れたら良いなと思っています。
余談ですが...昨年はちゅうるい館近くに新しくワニのオブジェがやってきました。
このオブジェはナイルワニ。はちゅうるい館の ニシアフリカコビトワニとは別の種なんです。
乗ったり写真を撮ったりするだけでなく、どこが違うか見比べてみるのも楽しいですよ!
それでは2024年も安佐動物公園 と はちゅうるい館をよろしくお願いします!
じゃい(辰年)
参考
青木良輔 2001. ワニと龍:恐竜になれなかった動物の話. 平凡社新書
Iijima M. et al. 2022. An intermediate crocodylian linking two extant gharials from the Bronze Age of China and its human-induced extinction. Proc Biol Sci B. 289(1970): 20220085