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2025/06/29論文を発表しました! ~双子のインドホシガメの初期飼育と成長記録~

こんにちは!爬虫類&リクガメ担当 じゃい です。

 

今回ご紹介するのは、2022年の717日におきた出来事です。

リクガメ広場で飼育していたインドホシガメが産んだ1つの卵から、なんと双子のカメが孵化しました。

こちらが当日の写真です。へその緒のように見える部分のは、卵黄が入っている膜(卵黄嚢)です。

 

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ヒトを含む哺乳類では一卵性双生児がときどき生まれますが、カメをはじめとする爬虫類や鳥類など、卵から生まれる動物ではとても珍しいことなんです。

哺乳類の赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で育ちます。たとえ双子だったとしても、お腹は大きくふくらみますし、お母さんから2人分の栄養をもらって育つことができます(お母さんは大変ですが...!!)。

ですが卵の場合、卵の中には1頭分のスペースと栄養しかありません。たまたま双子ができても、1つの卵の中で2頭がしっかり育つには、どうしても無理があるんです。

 

そのため鳥や爬虫類の双子は、卵の中で発生が止まってしまったり、片方だけが育ったり、仮に孵化しても体が小さすぎてうまく育たずに死んでしまうことが多いと言われています。

今回の双子も、産まれたときの体重は8.6 g。インドホシガメの孵化時の平均体重が18.5 g と言われているので、半分以下の大きさでした。

 

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そんな中で、嬉しいことに今回は2頭とも元気に育ってくれています。上の写真は、ちょうど孵化から1年が経った日のもので、体重はそれぞれ65 gと78 gでした。双子なのに大きさが結構違うのが不思議ですね。

とても貴重な事例ということで、最初の1年間にどのように飼育したのか、体重がどのように成長していったのかを記録して、短報論文にまとめました。

そして、その論文がSociety for the Study of Amphibians and Reptiles(国際爬虫両生類学会)が発行する専門誌『Herpetological Review』に掲載されました。安佐動物公園で生まれた双子のカメたちが、見事に世界デビューを果たしたのです!

 

先程も書いたように、爬虫類の一卵性双生児は"事故"とも言えるイレギュラーな現象です。そのため事例は少なく、元気に育った記録もほとんどありません。つまり、適切な飼育方法もよく知られていないのが現状です。

今回の論文発表は、単に「珍しいことが起きたよ」という報告だけでなく、同じように世界のどこかの動物園で偶然に生まれた双子のカメがいたとき、その命を救うヒントになるかもしれない...そんな思いも込めたつもりです。

 

こうして少しずつ記録や情報を蓄積していくことで、飼育現場での知識や技術が高まり、動物たちの健康や福祉に繋がっていきます。

そのために、日々の仕事を論文という形で発表していくことにも挑戦し続けていきます。応援していただけたら嬉しいです!

 

最後はもうすぐ3歳を迎える双子の写真でお別れしましょう。体重は258 gと281 g、孵化したときのおよそ30倍にまで育ちました。

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同じ年に生まれた他の子ガメたちとともに、少しずつ甲羅の模様が変わってきていて、どれがどの子なのか見分けるのが難しくなってきたのが最近の悩みです。

 

それではまた!

じゃい

 

【論文タイトル】Geochelone elegans: Care and growth rates of monozygotic twins.

【掲載雑誌】Herpetological Review 53(3): 367-368.

【著者】Anzai Wataru, Higashi Kanako