2020/06/28はちゅうるい館の仲間たち(14)アカマダラ
皆さんこんにちは。じゃいです。
はちゅうるい館が再開館して1ヶ月ほど経ちますが、
ここ最近、施設老朽化による雨漏りのため、閉館する日が目立っております。
晴れていても前日の雨が漏ることもあるため、開館できるかの判断が当日朝になってしまいます。
修理対応が済むまでご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力をよろしくお願いします。
その分こちらの連載は気合を入れて、休まず続けてまいります。
今回は、休園明けから展示を開始した新入りのヘビ、アカマダラを紹介します。
アカマダラ Lycodon rufozonatum *という名の通り、
赤い体に黒い横帯が並び、まだら状の模様になっているのが特長です。
中国の南東部、朝鮮半島、台湾、ベトナム北部、ラオスといった東アジアに分布しており、
日本でも対馬と先島諸島にのみ生息しています。
ちなみに、宮古列島および八重山列島に生息する個体群はやや黄色い体をしており、
サキシママダラ Lycodon rufozonatum walliという日本の固有亜種に分類されています。
平地から山地まで、乾いた草原から水辺まで、広い範囲に生息します。
ネズミなどの小型哺乳類、小鳥やその卵、トカゲ、魚などの小動物を食べますが、
特にカエルが大好物な個体が多いようです。
赤と黒という色合いもあって、なかなか毒々しい外見をしていますが、毒はもっていません。
代わりに、身の危険を感じると、臭い液体を総排泄腔(お尻の穴)から出します。
この強烈な臭いで、イタチなど鼻の良い肉食動物から身を守っていると考えられています。
また、臭いを出すだけでなく、防御姿勢をとりながら相手を威嚇することもあります。
体をグルグル巻いて丸くなり、頭を内側に潜らせつつ、隙間から顔を出して周りの様子を伺います。
そして尻尾の先だけブンブンと振って、地面をベチベチと叩いて音を出します。
飼育ケージのガラス面を叩くときの音も結構大きいので、
野外の落ち葉が多い場所では、結構迫力のある威嚇音が出るのかもしれません。
さて、この音に関してですが...皆さん、「ヘビは音が聞こえない」なんて話を聞いたことがありませんか?
以前アシナシトカゲを紹介した際に書いたのですが、実はヘビには"耳"がありません。
普段「耳」といえば、体の外に出ている部分、すなわち「耳介」を思い浮かべる方が多いかと思います。
音を集める"アンテナ"の役割を果たす耳介は、主に陸生の哺乳類だけがもっている特長です。
サルの耳はヒトと似た形をしていますし、音に敏感なサイの耳はグルングルンとよく動きます。
ゾウのように、とても大きな耳をもつ動物もいますね。
一方で爬虫類に耳介はなく、トカゲは耳の穴だけがポツンと開いており、カメは鼓膜が直接見えています。
動物が「音」を聞くときは、まず空気の振動が鼓膜を震わせて、
その情報が耳の内部を通って脳に伝わることで、脳が「音」だと認識しています。
哺乳類もトカゲも、耳の穴の奥にある鼓膜へ空気の振動が伝わるわけですが、
ヘビの場合は耳の穴もなければ、振動する鼓膜もありません。
それでも中耳・内耳といった「耳から脳へと音の情報を伝える器官」は発達しているため、
「ヘビは空気中を伝わってくる音は聞こえないが、代わりに地面の振動に敏感なのだろう」
という説が、専門家の間でも古くから信じられていました**。
しかし実際のところ、ヘビはちゃんと空気中の音に反応することがわかっています。
ただし、認識できる音の範囲がとても狭いようです。
私たちヒトの耳が感じ取れる音の周波数は、約 60 ~ 16,000 Hzです***。
Hz(ヘルツ)とは振動の1秒あたりの周期数で、値が大きければ大きいほど高い音になります。
例えば車のエンジン音が約100 Hz、人の話し声が約1,000 Hz、スズムシの鳴き声が約4,000 Hzです****。
60 Hzより低い振動、16,000 Hzより高い振動を、私達は音として感じ取ることができません。
聞き取れる音の高さは動物によって違っていて、イヌは約 200 ~ 50,000 Hzの広範囲を、
超音波を発するコウモリの仲間は120,000 Hzほどの高い音も感知できます***。
そして、一般的にヘビが感知できる音は、約 50 Hz~1,000 Hzだとわかっています**。
音を聞くことができているとは言え、イヌやヒトに比べるとかなり範囲が狭いことと、
聞き取れるのは低い音に限られていることがわかりますね。
ヘビに出会ったヒトが悲鳴をあげたとしても、ヘビには聞こえていないかもしれません。
ただし、耳の穴がない分、ヘビは全身で周りの振動を感知できているようです。
近くをネズミが歩くときに起こす小さな音とわずかな地面の振動だけで、
ヘビはそのネズミの位置が正確にわかってしまうんです**。
つまりヘビの聴覚は「空気の振動を感じとれない代わりに、地面の振動に敏感である」わけではなく、
「高い音は感じ取れないが、空気でも地面でも振動には敏感」というのが特長のようです。
ちなみに、何故こんな耳に進化したのか?に関しては、解明されていない部分が多くあります。
ヘビの体には、まだまだ多くの不思議が眠っているんですね。
さて、アカマダラは夜行性の傾向にあるため、
昼間の展示中に動いている姿はあまり見ることができないかもしれません。
はちゅうるい館のアカマダラは水鉢の中か、網カゴの中で丸まっていることが多いですが、
飼育係が掃除しようと手を入れる際には、尾を振ってベチベチと音を鳴らすこともあります。
タイミングが良いと、そんな場面にも遭遇するかもしれませんね。
(ちなみに私は毎回、咬むなよ...と祈りながら作業をしています)
それでは、また次回!
じゃい
* 日本爬虫両生類学会発行の標準和名リスト(http://herpetology.jp/wamei/index_j.php)を含め、日本ではマダラヘビ属はDinodonと表記されることが多いようです。ここでは、The Reptile Database (www.reptile-database.org) および模式標本産地である中国での表記にならい、Lycodonとしています。
** リリーホワイト,2019. ヘビという生き方. 監訳 細将貴, 東海大学出版, 264p.
*** 岡ノ谷, 2008. 日本音響学会誌 Q&Aコーナー.日本音響学会誌, 64: 264. 音圧も考慮した、実質的な可聴範囲の値です。音圧を考慮しない場合、ヒトの可聴領域は20 Hz~20,000 Hzと言われています。
**** 環境省 水・大気環境局大気生活環境室,2007.よくわかる低周波音.https://www.env.go.jp/air/teishuha/yokuwakaru/full.pdf